労災が発生したとき、会社がやるべき5つの初動対応とは?

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労働災害(労災)は、どんなに安全対策を徹底していても、完全に防ぐことは困難です。厚生労働省の統計によると、令和5年の労働災害による死傷者数は約13万人にのぼり、依然として多くの職場で労災が発生しています(出典:厚生労働省「令和5年における労働災害発生状況」)。
労災が発生した際の会社の対応は、被災した社員の治療や補償だけでなく、会社の信頼性や法的責任にも大きく影響します。適切な初動対応を行うことで、社員との信頼関係を維持し、二次被害を防ぐことができます。
本記事では、労災発生時に会社が取るべき5つの重要な初動対応について、実務経験に基づいて詳しく解説いたします。
労災発生時の初動対応が重要な理由
労災が発生した際の初動対応は、その後の展開を大きく左右する重要な要素です。適切な対応を怠ると、以下のような深刻な問題が生じる可能性があります。
被災社員への影響
適切な治療を受けられず、症状が悪化したり、後遺症が残ったりする可能性があります。また、会社からの適切なサポートがないことで、精神的な負担が増大し、職場復帰が困難になることもあります。
会社への影響
労働基準監督署からの是正勧告や、場合によっては刑事責任を問われる可能性があります。また、社員や取引先からの信頼失墜、労務トラブルの拡大なども懸念されます。
法的リスク
労働安全衛生法や労働基準法に基づく義務を怠ると、罰則の対象となる場合があります。さらに、民事上の損害賠償責任を負うリスクも高まります。
当事務所では「信頼と対話の架け橋」を理念として、こうした問題を未然に防ぎ、会社と社員の双方が安心できる職場環境づくりをサポートしています。
被災社員の安全確保と救急措置
労災が発生した際の最優先事項は、被災した社員の生命と安全を確保することです。この対応の良し悪しが、その後の治療効果や社員の信頼に大きく影響します。
即座に行うべき安全確保措置
現場の安全確認
二次災害を防ぐため、まず現場の安全を確認します。電気設備による感電の危険性、化学物質の漏洩、崩落の可能性など、追加の危険要因がないかを迅速に判断し、必要に応じて現場を立ち入り禁止にします。
被災社員の状態確認
意識の有無、呼吸の状態、出血の程度など、被災社員の容態を冷静に確認します。この際、むやみに動かすことは避け、専門的な救急処置が必要と判断される場合は、速やかに救急車を要請します。
適切な救急措置の実施
応急手当が可能な場合は、適切な処置を行います。ただし、無理な処置は症状を悪化させる可能性があるため、確実にできる範囲での対応に留めることが重要です。
医療機関への連絡と搬送
救急車の要請
重篤な怪我や意識不明の場合は、迷わず119番通報を行います。軽傷に見えても、頭部外傷や内臓損傷の可能性がある場合は、安全を優先して救急車を要請することが大切です。
医療機関への事前連絡
救急車を要請しない場合でも、受診する医療機関には事前に連絡を入れ、労災である旨を伝えます。これにより、適切な治療体制を整えてもらうことができます。
社員への同行
可能な限り、上司や人事担当者が医療機関まで同行し、社員の不安を軽減するとともに、医師からの説明を直接聞くことが重要です。
労働安全衛生法第25条では、事業者に対して労働災害が発生した場合の応急措置義務が定められており、この対応は法的義務でもあります。
関係機関への報告と届出
労災が発生した場合、法律に基づいて関係機関への報告や届出を行う必要があります。これらの手続きを怠ると、法的な責任を問われる可能性があるため、確実に実施することが重要です。
労働基準監督署への報告
労働者死傷病報告書の提出
労働安全衛生法第100条に基づき、労働者が労働災害により死亡または休業4日以上の負傷・疾病を被った場合、「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署に提出する必要があります。
提出期限
- 死亡または休業4日以上の場合:遅滞なく(目安として発生から24時間以内が望ましい)
- 休業1日以上4日未満の場合:四半期ごとにまとめて報告
報告書の記載内容
災害の発生状況、原因、被災者の状況、講じた措置などを詳細に記載します。正確な情報を記載することで、適切な指導を受けることができ、再発防止にもつながります。
警察への届出
死亡事故や重篤な負傷事故の場合は、警察への届出も必要です。事故の状況によっては、業務上過失致死傷罪などの刑事責任が問われる可能性もあるため、弁護士との相談も検討します。
労働保険への手続
被災社員が労災保険給付を受けるための手続きをサポートします。療養補償給付や休業補償給付など、必要な給付の種類を確認し、適切な書類の作成を支援します。これらの報告・届出は、単なる法的義務を超えて、被災社員への適切な補償を確保し、再発防止のための重要な情報となります。
現場保全と証拠収集
労災の原因を正確に把握し、再発防止策を講じるためには、現場の状況を適切に保全し、必要な証拠を収集することが不可欠です。
現場の保全措置
現場の写真撮影
事故現場の状況を多角度から撮影し、災害発生時の状況を記録します。機械設備の状態、作業環境、安全設備の状況なども詳細に記録することが重要です。
物的証拠の保全
破損した機械や器具、安全保護具などの物的証拠は、原因究明のために重要な情報源となります。これらを適切に保管し、必要に応じて専門機関での分析を依頼します。
現場図面の作成
事故現場の詳細な図面を作成し、被災者の位置、機械設備の配置、事故の発生状況などを正確に記録します。
関係者からの聞き取り調査
被災者からの聞き取り
被災者の体調が回復次第、事故発生時の状況について詳しく聞き取りを行います。ただし、被災者の心理的負担を考慮し、無理強いは避けます。
目撃者からの証言収集
事故を目撃した社員がいる場合は、できるだけ早期に証言を収集します。時間が経過すると記憶が曖昧になる可能性があるため、迅速な対応が重要です。
作業手順の確認
事故発生時の作業手順や安全対策の実施状況について、関係者から詳しく聞き取ります。
記録の整理と保管
時系列での整理
収集した情報を時系列で整理し、事故の発生経緯を明確にします。これにより、原因の特定と再発防止策の検討が効果的に行えます。
適切な保管
収集した証拠や記録は、法的な要求や労働基準監督署の調査に備えて、適切に保管します。電子データの場合は、バックアップも忘れずに作成します。
これらの証拠収集は、労働基準監督署の調査や、場合によっては民事・刑事手続きにおいても重要な役割を果たします。
社員や家族への連絡と情報共有
労災が発生した際は、被災社員の家族への連絡や、他の社員への適切な情報共有を行うことが重要です。この対応により、組織全体の信頼関係を維持し、不安の拡大を防ぐことができます。
被災社員の家族への連絡
迅速な連絡
被災社員の家族には、できるだけ早期に連絡を取り、事故の発生と現在の状況を伝えます。この際、事実を正確に伝える一方で、家族の不安を必要以上に煽らないよう配慮が必要です。
継続的な情報提供
治療の経過や会社の対応状況について、定期的に家族に報告します。透明性のある情報共有により、家族との信頼関係を築くことができます。
サポート体制の説明
労災保険による補償内容や、会社として提供できるサポートについて、わかりやすく説明します。不明な点があれば、いつでも相談できる体制を整えます。
他の社員への情報共有
適切なタイミングでの公表
他の社員に対しては、憶測や噂が広がる前に、適切なタイミングで正確な情報を共有します。ただし、被災社員のプライバシーに配慮し、医療情報など個人的な内容は除外します。
安全対策の強化を伝達
事故を受けて講じる安全対策や再発防止策について、全社員に周知します。これにより、社員の不安を軽減し、安全意識の向上を図ります。
相談窓口の設置
事故に関する質問や、安全に関する相談を受け付ける窓口を設置します。社員が気軽に相談できる環境を整えることで、職場の心理的安全性を維持します。
コミュニケーションの質の向上
対話を重視した姿勢
一方的な情報提供ではなく、社員からの質問や懸念に真摯に対応し、双方向のコミュニケーションを心がけます。
専門用語の使用を避ける
労災保険や法的手続きに関する説明では、専門用語を避け、誰にでもわかりやすい言葉で説明します。
継続的なフォロー
一度の説明で終わらせず、継続的にフォローアップを行い、新たな質問や不安があれば適切に対応します。
これらの対応により「信頼と対話の架け橋」を築き、組織全体の結束力を高めることができます。
原因究明と再発防止策の実施
労災が発生した後の最も重要な取り組みの一つが、原因の徹底的な究明と効果的な再発防止策の実施です。この対応により、同様の災害を防ぎ、より安全な職場環境を構築することができます。
原因究明の進め方
多角的な分析手法の活用
事故の原因を単一の要因に求めるのではなく、人的要因、物的要因、環境的要因、管理的要因など、多角的な視点から分析します。
根本原因の特定
表面的な直接原因だけでなく、なぜその状況が生じたのかという根本原因まで掘り下げて調査します。「なぜ」を5回繰り返す「5Why分析」などの手法が効果的です。
専門家の活用
必要に応じて、安全管理の専門家や産業医などの外部専門家の意見を求めます。客観的な視点からの分析により、見落としがちな要因を発見できる場合があります。
再発防止策の策定
ハード面での対策
機械設備の改善、安全装置の設置、作業環境の改善など、物理的な安全対策を講じます。これらの対策は、人的ミスに依存しない確実な安全確保につながります。
ソフト面での対策
作業手順の見直し、安全教育の充実、安全管理体制の強化など、運用面での改善を図ります。定期的な安全点検や危険予知活動の実施も効果的です。
教育・訓練の強化
全社員を対象とした安全教育を実施し、危険に対する感受性を高めます。実際の災害事例を教材として活用することで、より実践的な教育が可能となります。
継続的な改善活動
PDCAサイクルの実践
Plan(計画)⇒ Do(実行)⇒ Check(評価)⇒ Action(改善)のサイクルを回し、継続的な安全管理の向上を図ります。
安全パトロールの実施
定期的な安全パトロールを実施し、新たな危険要因の早期発見に努めます。社員からの安全提案を積極的に受け入れる仕組みも構築します。
安全管理体制の見直し
労働安全衛生法第19条に基づく安全管理者の選任や、安全委員会の運営について見直しを行い、より効果的な安全管理体制を構築します。
効果の測定と評価
安全指標の設定
災害度数率や災害強度率などの客観的な指標を設定し、安全対策の効果を定量的に測定します。
社員アンケートの実施
社員の安全意識や職場の安全環境に対する満足度を定期的に調査し、主観的な評価も把握します。
継続的な見直し
設定した再発防止策の効果を定期的に評価し、必要に応じて内容の見直しや追加対策を実施します。
これらの取り組みにより、労災の再発防止だけでなく、社員の安全意識向上と組織全体の安全文化の醸成を図ることができます。
労災対応における注意点とよくある間違い
労災対応では、善意からの行動が逆に問題を拡大させてしまうケースがあります。以下のような注意点を把握しておくことが重要です。
よくある間違いと対処法
「軽傷だから大丈夫」という判断
外見上は軽傷に見えても、内部損傷や後から症状が悪化する場合があります。被災社員の「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、必ず医療機関での診察を受けるよう勧めることが大切です。
証拠隠滅と疑われる行為
善意で現場を片付けたり、機械を修理したりする行為が、証拠隠滅と疑われる場合があります。現場保全の重要性を全社員に周知しておくことが必要です。
個人の責任に帰結させる傾向
事故の原因を個人のミスや不注意に求めがちですが、なぜそのような状況が生じたのかという管理的な要因も含めて検討することが重要です。
法的リスクの回避
労働基準監督署の調査への対応
調査には真摯に協力し、隠蔽や虚偽報告は絶対に行わないことが重要です。不明な点があれば、専門家のアドバイスを求めることをお勧めします。
民事責任への備え
安全配慮義務違反による損害賠償請求のリスクに備え、適切な保険加入や法的対応の準備を行うことが重要です。
まとめ:信頼関係構築のための労災対応
労災が発生した際の会社の対応は、単なる法的義務の履行を超えて、社員との信頼関係構築の重要な機会でもあります。
迅速で適切な初動対応の重要性
5つの初動対応(安全確保・関係機関への報告・現場保全・情報共有・再発防止)を確実に実行することで、被災社員の早期回復と職場の安全確保を両立させることができます。
継続的な改善への取り組み
労災対応は一過性の対応で終わらせるのではなく、組織全体の安全文化向上につなげる継続的な取り組みとして位置づけることが重要です。
専門家との連携の価値
労災対応には法的な知識だけでなく、メンタルヘルスケアや組織運営の知見も必要です。社会保険労務士などの専門家と連携することで、より効果的で包括的な対応が可能となります。
当事務所では「信頼と対話の架け橋」の理念のもと、労災発生時の迅速な対応支援から、継続的な安全管理体制の構築まで、トータルでサポートいたします。法令遵守と社員の幸福を両立させ、持続可能な組織づくりをお手伝いします。
労災対応でお困りの際は、一人で悩まず、ぜひ専門家にご相談ください。適切な初動対応により、会社と社員の双方にとって最良の結果を導くことができます。