雇用契約書のチェックポイント|トラブルを避けるために必要なこと

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雇用契約書は会社と社員の信頼関係を築く大切な土台です

雇用契約は口頭でも成立しますが、書面(雇用契約書)で明確にすることがトラブル防止に有効です。適切な雇用契約書を作成することで、将来的なトラブルを未然に防ぎ、お互いが安心して働ける環境を整えることができます。
しかし、実際には雇用契約書の作成や内容の確認が不十分なために、後々トラブルに発展するケースが少なくありません。厚生労働省の調査によれば、個別労働紛争の相談件数は年間約100万件に上り、その多くが雇用条件に関する誤解や認識の違いから生じています(出典:厚生労働省「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。
この記事では、雇用契約書を作成・確認する際のチェックポイントについて、わかりやすく解説します。「信頼と対話の架け橋」を築くために必要な雇用契約書の知識を身につけましょう。

目次

雇用契約書とは何か?

雇用契約書とは、会社と社員の間で交わされる労働条件を明文化した書類です。労働基準法第15条及び施行規則第5条により、労働契約締結時に労働条件の書面による明示が義務付けられています。

特に絶対的明示事項として以下の事項は書面で明示することが義務付けられています。

  1. 労働契約の期間
  2. 就業場所と従事する業務
  3. 始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇
  4. 賃金の決定方法、計算方法、支払い方法
  5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

雇用契約書がないとどうなる?

雇用契約書が作成されていない場合でも労働契約は成立しますが、次のようなリスクが生じます。

  1. 労働条件が不明確になり、後々トラブルの原因となる
  2. 労働基準監督署の調査で是正勧告を受ける可能性がある
  3. 会社と社員の信頼関係が損なわれる

実際、「言った・言わない」の水掛け論になるケースも多く、裁判になると証拠がないため会社側が不利になることもあります。

雇用契約書作成の7つのチェックポイント

1. 基本情報の明確化

契約の基本となる情報をしっかり記載しましょう。

  • 会社名、所在地、代表者名
  • 社員の氏名、住所、生年月日
  • 契約開始日
  • 契約期間(期間の定めがある場合)

2. 就業場所と業務内容は具体的に記載する

「会社が指定する場所」「会社が命じる業務」といった曖昧な表現では、後々トラブルになりがちです。可能な限り具体的に記載しましょう。

例えば次のように記載します。

  • 「東京本社営業部において営業業務に従事する」
  • 「大阪支店において経理業務に従事する」

ただし、将来的な人事異動の可能性がある場合は、「会社の業務上の都合により変更することがある」といった記載を加えておくとよいでしょう。

3. 労働時間と休日・休暇の明確化

労働時間や休日は社員の生活に直結する重要な事項です。

  • 始業・終業時刻(例:9:00〜18:00)
  • 休憩時間(例:12:00〜13:00)
  • 所定労働時間(例:8時間)
  • 休日(例:土日祝日、年末年始12/29〜1/3)
  • 年次有給休暇の付与日数と取得方法
  • 変形労働時間制を採用する場合はその旨と詳細

フレックスタイム制やみなし労働時間制を採用する場合は、その旨と詳細な運用方法を記載することが重要です。

4. 賃金に関する事項は細かく規定する

給与トラブルを避けるために、次の事項を明確に記載しましょう。

  • 基本給の額
  • 各種手当(通勤手当、住宅手当、資格手当など)
  • 賞与の有無と計算方法
  • 昇給の有無と時期
  • 賃金の計算期間(例:毎月1日〜末日)
  • 賃金の支払日(例:翌月25日)
  • 賃金の支払方法(例:銀行振込)
  • 残業代の計算方法

残業代(時間外労働手当)については、基本給に含む旨の包括的な記載は労働基準法違反となり無効とされるため、別途明確に規定する必要があります。

5. 退職・解雇に関する規定

円満な退職や適法な解雇のために、次の事項を規定しておきましょう。

  • 自己都合退職の場合の申し出期限(例:退職予定日の1ヶ月前まで)
  • 定年の有無と年齢
  • 解雇事由(就業規則に定める解雇事由の範囲内であること)
  • 解雇予告や解雇予告手当に関する事項

解雇については、労働基準法第20条により、少なくとも30日前の解雇予告または30日分の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払いが義務付けられています。

6. 機密保持・競業避止義務

情報漏洩や競合他社への転職によるトラブルを防ぐために、次の事項を規定しておくとよいでしょう。

  • 在職中および退職後の機密情報の取扱い
  • 競業避止義務の範囲と期間
  • 違反した場合の損害賠償の取り決め

ただし、競業避止義務については、合理的な範囲(期間・地域・業種)で規定し、違反時の損害賠償条項を設けることが望ましいですが、過度に広範な制限は無効になる可能性があります。

7. 社会保険の加入状況

社会保険に関する情報も記載しておきましょう。

  • 健康保険の加入有無と種類(全国健康保険協会、健康保険組合など)
  • 厚生年金の加入有無
  • 雇用保険の加入有無
  • 労災保険の加入有無

雇用契約書作成時によくある問題点と解決策

1. 曖昧な表現を使用している

⇒ 具体的な数字や条件を明記しましょう

例えば「残業が多い場合がある」ではなく「繁忙期には月20時間程度の時間外労働が発生する可能性がある」といった具体的な表現にします。

2. 法律に反する条項がある

⇒ 最新の労働法規に準拠した内容にしましょう

例えば「いかなる理由でも残業代は支払わない」「有給休暇の取得を認めない」といった条項は無効です。定期的に法改正をチェックし、最新の法律に準拠した内容にすることが重要です。

3. 就業規則との整合性がとれていない

⇒ 就業規則と雇用契約書の内容を一致させましょう

就業規則と雇用契約書の内容が矛盾していると、どちらが優先されるかでトラブルになる可能性があります。基本的には社員に有利な条件が優先されるため、会社側が不利になることもあります。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書と似た書類に「労働条件通知書」がありますが、両者には重要な違いがあります。

  • 雇用契約書:会社と社員の双方が合意して署名・捺印する契約書
  • 労働条件通知書:会社が社員に労働条件を通知するために一方的に発行する書類(法定の明示事項を満たせば足りる)

労働条件通知書は法律で定められた最低限の事項を記載すればよいですが、雇用契約書はより詳細な合意事項を含めることができます。トラブル防止の観点からは、労働条件通知書だけでなく雇用契約書も作成することをお勧めします。

契約書の見直しタイミング

雇用契約書は一度作成して終わりではありません。次のようなタイミングで見直しを行いましょう。

  1. 法改正があったとき
  2. 就業規則を変更したとき
  3. 社員の役職や待遇に変更があったとき
  4. 労働条件を変更するとき(不利益変更時は労働者の同意が必要)

特に労働条件を不利益に変更する場合は、社員の同意が必要となりますので注意が必要です。

まとめ:信頼関係を築くための雇用契約書

雇用契約書は単なる形式的な書類ではなく、会社と社員の信頼関係を築くための重要なツールです。明確で公正な雇用契約書を作成することで、お互いの権利と義務を理解し、安心して働ける環境を整えることができます。
「信頼と対話の架け橋」を築くためには、一方的な条件の押し付けではなく、社員の立場にも配慮した内容にすることが大切です。疑問点があれば、契約書にサインする前に話し合い、お互いが納得した上で契約を結ぶことが重要です。
雇用契約書の作成や見直しにお悩みの際は、専門家である社会保険労務士にご相談ください。トラブルを未然に防ぎ、健全な労使関係を構築するためのお手伝いをさせていただきます。

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