労務監査とは?

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労務監査という言葉を聞いたことはありますか?多くの会社では「労務監査」という言葉に馴染みがないかもしれません。しかし、労働関係法令が複雑化し、働き方改革や同一労働同一賃金などの新たな制度が次々と導入される中、会社が知らないうちに法令違反をしているリスクは年々高まっています。
当記事では、労務監査の意味や必要性、実施方法について分かりやすく解説します。労務リスクから会社を守るために、ぜひ最後までお読みください。
労務監査とは何か?
労務監査とは、企業が労働関係法令(労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法等)を適切に遵守し、社内規程や実務運用が法令に適合しているかを専門的に調査・点検するプロセスです。会計監査が財務の適正性を確認するのと同様に、労務監査は労務管理体制の法令適合性やリスクを第三者的立場から評価します。
労務監査の目的は主に以下の3つです。
- 法令違反の発見と是正
- 労務リスクの未然防止
- 労務管理体制の強化
特に昨今は、働き方改革関連法の施行や労働関係法令の改正が相次ぎ、会社側の管理負担が増大しています。社員との信頼関係を保ちながら適切な労務管理を行うためにも、定期的な労務監査の実施が重要となっています。
なぜ今、労務監査が必要なのか?
1. 労働関係法令の複雑化
労働基準法、労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法など、労働関係法令は年々複雑化しています。「知らなかった」では済まされない法令違反が増えており、会社を守るためにも定期的な点検が欠かせません。
2. 労働トラブルの増加と社会的影響
SNSの普及により、会社の労務問題は瞬く間に拡散され、企業イメージに大きなダメージを与えることがあります。労働基準監督署への申告や労働審判の増加など、労働トラブルが表面化するリスクも高まっています。
3. 罰則の強化と是正勧告
労働基準監督署による立入調査で法令違反が発覚した場合、是正勧告だけでなく、悪質な場合は刑事罰が科されることもあります。また、行政指導の結果が公表されるケースも増えており、会社の信頼失墜につながりかねません。
4. 人材確保・定着への影響
優秀な人材を確保・定着させるためには、法令を遵守した適切な労務管理が不可欠です。社員が安心して働ける環境を整えることは、人材戦略の観点からも重要です。
労務監査で何をチェックするのか?
労務監査では主に以下の項目をチェックします。
1. 労働条件の明示と雇用契約
- 労働条件通知書・雇用契約書の有無と内容
- 就業規則との整合性
- 各種労働条件の明示状況
2. 労働時間管理
- 勤怠管理の方法と正確性
- 残業時間の把握と36協定の遵守状況
- 変形労働時間制や裁量労働制の運用状況
- 休憩時間・休日の付与状況
3. 賃金管理
- 最低賃金の遵守状況
- 割増賃金の計算と支払い
- 賃金控除の適法性
- 同一労働同一賃金への対応状況
4. 休暇・休業制度
- 年次有給休暇の付与と管理状況
- 育児・介護休業制度の整備と運用
- 各種法定休暇の取得状況
5. 安全衛生管理
- 安全衛生委員会の設置と運営
- 健康診断の実施状況
- ストレスチェックの実施状況
- 職場の安全衛生環境
6. ハラスメント対策
- ハラスメント防止規程の整備
- 相談窓口の設置と周知
- 研修・啓発活動の実施状況
7. 社会保険・労働保険
- 適用漏れの有無
- 届出・手続きの適切性
- 保険料の計算と納付状況
労務監査の種類と特徴
労務監査には大きく分けて以下の3つのタイプがあります。
1. 自主点検型
会社が自ら労務管理状況をチェックする方法です。
メリット
- コストがかからない
- 都合の良いタイミングで実施できる
デメリット
- 専門知識が不足していると見落としが生じる
- 客観的な視点に欠ける
2. 専門家監査型
社会保険労務士などの専門家に依頼して実施する監査です。
メリット
- 専門的知識に基づく正確な点検が可能
- 客観的な視点からの評価が得られる
- 改善提案まで一貫して対応できる
デメリット
- 費用がかかる
- 外部に情報を開示する必要がある
3. 第三者認証型
労務管理の状況を第三者機関が認証する制度です(例:職場環境改善認証など)。
メリット
- 対外的にアピールできる
- 採用活動などで優位性を持てる
デメリット
- 認証取得のためのコストと時間がかかる
- 継続的な維持管理が必要
労務監査の進め方
効果的な労務監査は以下のステップで進めることをお勧めします。
まずは何のために労務監査を行うのか、どの範囲をチェックするのかを明確にします。全ての項目を一度にチェックするのではなく、重点項目を絞って実施することも効果的です。
監査に必要な資料を収集します。主な資料には以下のようなものがあります。
- 就業規則や諸規程
- 労働条件通知書・雇用契約書
- 出退勤記録や賃金台帳
- 36協定や変形労働時間制に関する協定書
- 各種届出書類や申請書
書類だけでなく、実際の運用状況も確認することが重要です。必要に応じて以下のような調査も行います。
- 管理者や社員へのヒアリング
- 現場視察
- 勤怠システムの運用確認
調査結果に基づき、法令違反や改善が必要な点を洗い出します。問題の重要度や緊急度を評価し、優先順位をつけることが大切です
発見された問題点に対する改善策を立案し、実行計画を策定します。短期的に改善すべき点と中長期的に取り組むべき点を区別し、段階的に進めることをお勧めします。
改善策の実施状況を定期的に確認し、必要に応じて軌道修正を行います。また、再発防止のための仕組みづくりも重要です。
労務監査のタイミングと頻度
労務監査はどのくらいの頻度で行うべきでしょうか?以下のようなタイミングで実施することをお勧めします。
1.定期監査
基本的には年1回の定期監査が望ましいですが、会社の規模や状況に応じて2~3年に1回という頻度も考えられます。
2.特定テーマ監査
働き方改革や同一労働同一賃金など、特定のテーマに焦点を当てた監査を必要に応じて実施します。法改正があった際には、関連する項目を重点的にチェックすることが効果的です。
3.イベント発生時の監査
以下のようなイベントが発生した場合には、臨時の監査を検討すべきです。
- 会社の合併・買収
- 大幅な組織改編
- 就業規則の改定
- 労働トラブルの発生
- 労働基準監督署の調査
労務監査で多い指摘事項
労務監査で、特に多く見られる指摘事項をご紹介します。
1. 労働時間管理の不備
最も多い指摘が労働時間管理に関する問題です。具体的には以下のような事例が見られます。
- 残業時間の正確な把握ができていない
- 36協定の限度時間を超える残業が常態化している
- 管理監督者の範囲が適切でない
- 変形労働時間制の運用が不適切
2. 割増賃金の計算ミス
残業代や休日労働の割増賃金計算に誤りがあるケースが多く見られます。
- 割増賃金の基礎となる賃金の計算誤り
- 時間外・休日・深夜の区分の誤り
- 変形労働時間制における割増賃金の計算ミス
3. 就業規則と実態のかい離
就業規則と実際の運用にかい離があるケースも少なくありません。
- 規定はあるが運用されていない
- 運用はされているが規定がない
- 法改正に対応していない古い規定のまま
4. 各種手続きの漏れ
労働保険や社会保険の手続きに漏れがあるケースも多く見られます。
- 雇用保険や社会保険の加入漏れ
- 算定基礎届や月額変更届の提出漏れ
- 労働条件変更時の書面による通知漏れ
労務監査を成功させるポイント
1. 経営層のコミットメント
労務監査を成功させるためには、経営層の理解と協力が不可欠です。コンプライアンスの重要性を全社的に浸透させるためにも、経営層自らが率先して取り組む姿勢を示すことが大切です。
2. 「問題発見」ではなく「改善」を目的とする
労務監査の目的は単なる問題点の指摘ではなく、労務管理の改善と強化にあります。責任追及ではなく、より良い職場環境づくりのための取り組みという前向きな姿勢で臨むことが重要です。
3. 社員とのコミュニケーション
労務監査の実施にあたっては、その目的や意義を社員にも丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。「信頼と対話の架け橋」という観点からも、オープンなコミュニケーションを心がけましょう。
4. 専門家の活用
労働法令は複雑で頻繁に改正されるため、最新の知識を持った専門家の支援を受けることが効果的です。社会保険労務士などの専門家と連携することで、より精度の高い監査と適切な改善提案が期待できます。
まとめ:労務監査で「信頼と対話の架け橋」を築く
労務監査は単なる法令遵守のチェックにとどまらず、会社と社員の間に「信頼と対話の架け橋」を築くための重要なプロセスです。適切な労務管理は、社員が安心して能力を発揮できる環境を整え、会社の持続的な成長と発展につながります。
法令違反のリスクを回避するだけでなく、社員一人ひとりが働きがいを感じられる職場づくりのために、定期的な労務監査を取り入れてみてはいかがでしょうか。
当事務所では、お客様の状況に合わせた労務監査プランをご提案しています。「まずは何から始めればよいのか分からない」「自社の労務リスクを知りたい」といったお悩みにも丁寧にお応えします。労務監査を通じて、貴社の「信頼と対話の架け橋」づくりをサポートさせていただきます。
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