退職勧奨と解雇の違いとは?トラブル回避のための実務知識

当事務所のホームページをご覧いただき、誠にありがとうございます。皆様は「退職勧奨」と「解雇」の違いについて、正確に把握されていますでしょうか?会社と社員の関係が終了する場面において、これらの違いを正しく理解することは、双方にとって非常に重要です。
退職勧奨と解雇の基本的な違い
退職勧奨とは、会社が社員に対して退職を勧め、合意を得て雇用関係を終了させる方法です。一方、解雇とは会社が一方的に雇用契約を終了させる行為です。この二つの大きな違いは「社員の同意が必要かどうか」にあります。退職勧奨は社員の同意があって初めて成立するのに対し、解雇は会社の一方的な意思表示によって成立します。
退職勧奨の特徴と法的位置づけ
退職勧奨は、以下のような特徴があります。
- 社員の同意が必要である
- 話し合いによる合意退職が基本である
- 退職金や割増金などの条件交渉が可能である
- 法的には「合意解約」の一形態と位置づけられる
退職勧奨自体を直接規制する法律はありませんが、その方法や内容によっては「パワーハラスメント」や「不法行為」と認定されるリスクがあります。厚生労働省の調査によれば、個別労働紛争相談のうち、退職勧奨に関するものは8%を占めています。(出典:厚生労働省「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)
解雇の種類と法的規制
解雇には主に以下の種類があります。
- 普通解雇:能力不足、勤務態度不良など
- 整理解雇:経営上の理由による人員削減
- 懲戒解雇:重大な非行や規律違反による処分
解雇は労働契約法第16条で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。特に整理解雇については、判例上、以下の「4要件」が確立しています。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力を尽くしたこと(配転・希望退職募集など)
- 被解雇者選定の合理性
- 手続きの妥当性(労働組合や社員への説明・協議)
退職勧奨と解雇の実務上の主な違い
手続きの違い
退職勧奨の手続き
- 会社から社員への申し入れ
- 話し合いによる条件交渉
- 合意による退職届の提出
- 退職日の決定と引継ぎ
解雇の手続き
- 解雇理由の明確化・証拠収集
- 解雇予告(30日前)または解雇予告手当の支払い
- 解雇通知書の交付
- 解雇理由証明書の交付(請求があった場合)
リスクの違い
退職勧奨のリスク
- 強引な退職勧奨によるパワハラ認定
- 社員が同意しない場合の長期化
- 会社のイメージダウン
解雇のリスク
- 解雇無効による地位確認訴訟
- バックペイ(解雇期間中の賃金支払い)
- 会社の評判低下と採用への影響
退職勧奨を行う際の注意点
退職勧奨を行う際は、以下の点に注意しましょう。
適切な場所と時間の設定
退職勧奨の面談は、プライバシーに配慮した個室で行い、十分な時間を確保しましょう。就業時間内に行うことが基本です。
退職を勧める理由の明確な説明
なぜ退職を勧めるのか、客観的な事実に基づいて説明する必要があります。感情的な言葉や曖昧な表現は避けましょう。
強要にならない配慮
退職勧奨は強要してはいけません。社員の意思に反して何度も繰り返し退職を迫ったり、長時間に及ぶ説得を行ったりすることは、パワーハラスメントとなる可能性があります。東京高裁の判例では、「1か月間に6回、合計10時間以上の退職勧奨面談」をパワハラと認定した事例があります。
条件交渉の余地を残す
退職勧奨では、退職金の上乗せや退職日の調整など、条件面での交渉の余地を残すことが重要です。社員にとってのメリットを提示できると、合意に至りやすくなります。
解雇を検討する際の実務ポイント
解雇を検討する場合は、以下のポイントを押さえておきましょう。
解雇の合理的理由の明確化と証拠収集
解雇の理由となる事実を客観的に示せる証拠(業務指導記録、警告書、顧客からのクレーム記録など)を日頃から収集・保管しておくことが重要です。
段階的な指導・警告の実施
いきなり解雇するのではなく、口頭注意、書面による警告、降格・配置転換などの措置を段階的に行い、改善の機会を与えることが必要です。
解雇予告と解雇予告手当
労働基準法第20条により、解雇する場合は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。ただし、以下の場合は例外的に予告なしでの解雇が可能です。
- 天災その他やむを得ない事由により、事業の継続が不可能となった場合(労働基準監督署長の認定不要)
- 社員の責に帰すべき事由による場合(労働基準監督署長の認定が必要)
解雇通知書の交付
解雇の意思表示は、書面で行うことが望ましいです。解雇日、解雇理由、退職金の有無などを明記した解雇通知書を交付しましょう。
両者のグレーゾーン – 「退職勧奨」が「解雇」と判断されるケース
退職勧奨のつもりでも、以下のような場合には法的に「解雇」と判断される可能性があります。
- 「明日から来なくていい」など一方的に雇用終了を告げる言動
- 退職届の強制的な提出要求
- 長時間・頻回の退職勧奨面談の繰り返し
- 「辞めなければ懲戒解雇する」などの脅迫的言動
最高裁判例では、「退職届を書かなければ懲戒解雇する」と告げて退職届を提出させた事案について、真意に基づく退職の意思表示ではないとして解雇と判断されています。
実務上トラブルを回避するためのポイント
トラブル回避のポイントは以下のとおりです。
- 人事評価制度の整備と適切な運用
⇒業績や勤務態度の問題を客観的に評価・記録する仕組みを作りましょう。 - 日頃からの丁寧なコミュニケーション
⇒定期的な面談や適切なフィードバックによって、突然の退職勧奨による衝撃を避けられます。 - 就業規則の整備と周知
⇒解雇事由を具体的に明記し、社員に周知することで、予測可能性を高めましょう。 - 弁護士や社会保険労務士への相談
⇒重要な局面では、専門家の助言を受けることでリスクを最小化できます。
「対話」がトラブル回避の鍵
当事務所の理念である「信頼と対話の架け橋」の観点から最も重要なのは、会社と社員の間の「対話」です。雇用関係の終了は、どちらにとっても大きな転機となります。退職勧奨であれ解雇であれ、一方的な通告ではなく、十分な対話を通じて互いの状況や考えを理解し合うことが、トラブルを未然に防ぐ最大のポイントです。特に以下の点に注意しましょう。
- 社員の話をしっかり聞く姿勢
- 感情的にならない冷静な対応
- 可能な限り双方にとってのウィンウィンを模索する
- 必要に応じて第三者(専門家)の関与を検討する
まとめ:退職勧奨と解雇の違いを理解し、適切に対応する
会社と社員の円満な関係終了のためには、互いの立場を尊重し、十分なコミュニケーションを取ることが何よりも大切です。特に会社側は、社員の尊厳を守りながら、公正かつ透明性のある対応を心がけましょう。労使トラブルの多くは、コミュニケーション不足から生じています。「信頼と対話」を大切にすることで、たとえ雇用関係が終了するという難しい局面であっても、お互いが納得できる形で新たな一歩を踏み出すことができるでしょう。
この記事が「退職勧奨」と「解雇」の違いを理解する一助となり、皆様の適切な労務管理の参考になれば幸いです。当事務所では、これらの問題に関する相談も承っておりますので、お困りごとがございましたらお気軽にご連絡ください。